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2025/03/23 15:45


ガラスに閉じ込めた時間は永遠に


3月は転職、卒業、お引越しなど、新しい生活へ向けた変化の季節ですね。先日、お世話になった方への退職祝いとして、作品のご注文をいただきました。

「春先の暖かい日が続いたある日、ゆうなの花が奇跡のように咲きました。冬の終わりと春への移り変わりの中で、葉は虫に食べられながらも、若葉を守るように寄り添い、風雨に耐えていました。その逞しさに心を打たれながら、私はこの植物をガラスに焼き付けました。まるで、時を超えて残る化石のように。」

儚く消えていくものが、長い時を経ても美しい姿のまま残る――化石のように、ガラスに閉じ込められた植物もまた、時間の流れを超えて存在し続けます。
消えてしまうはずの一瞬を永遠に留めることができたなら…。そんな想いを込めて、今日も作品を生み出しています。



京都造形短期大学(現京都造形大学)立体科では、木材、石、鉄鋼、紙、繊維、プラスチックなど様々な素材を使った造形を学びました。しかし、当時はガラスを活用する機会がなく、その難しさがかえって私の探究心を刺激しました。ガラスに異なる素材を溶着(高温で融合させること)することがいかに難しいかを、東京ガラス工芸研究所で学びました。そこではガラスの歴史や技術を深く学び、素材の特性を理解する機会を得ました。





化石から学ぶ - ガラスと時間の関係

私は植物の化石が好きですが、琥珀の中に閉じ込められた昆虫も魅力的です。琥珀は樹液が長い時間をかけて硬化し、その過程で昆虫や植物を包み込むことで形成されます。上の写真は、ロシアで発見された花の琥珀。とても美しいですよね。
(写真:ナショナル ジオグラフィックより)

時間を閉じ込めるもの——水晶、化石、そしてガラス

水晶(石英・クォーツ)の中に昆虫や植物が閉じ込められることは、ほとんどありません。水晶は高温・高圧の環境で成長する鉱物のため、有機物はその過程で分解または炭化してしまいます。つまり、植物や昆虫は水晶の成長過程に耐えられず、化石のようにその姿を留めることはないのです。

ただし、例外もあります。「珪化木(シリカ化した木の化石)」は、地下水に含まれる二酸化ケイ素(SiO₂)が木の細胞に浸透し、長い時間をかけて徐々に石英へと置き換わることで形成されます。また、低温環境で成長した水晶(ヒマラヤ産・アルプス産など)には、有機物を含む液体の包有物が見つかることもあります。

では、ガラスはどうでしょうか。

ガラスは、溶けた状態から急速に冷やされることで固まります。この過程で、内部に微細な気泡が取り込まれることがあります。それは、まるで時間の中に閉じ込められた小さな痕跡のように、作品の中に静かに残り続けます。水晶のように完全に結晶化するわけではなく、化石のように長い年月をかけて形成されるものでもありませんが、ガラスにはガラスならではの「時間の記憶」が刻まれているのです。




学生時代の挑戦 – ガラスに命を閉じ込める

「琥珀には昆虫や植物が残るのに、水晶には気泡しか残らない。」
長い時間をかけた化石では実現しなかったことを、ガラスでなら作れるのでは? そう考えた私は、ガラスに有機物を閉じ込める作品に挑戦しました。

上の写真は、学生時代に制作した作品です。ガラスを地層のように重ね、その中に魚の骨のデザインをガラスに彫り、彫ったくぼみに気泡を閉じ込めました。層ごとに魚の骨の気泡が渦を巻き、まるで魚群が泳いでいるかのような表現になっています。

制作過程では、学校のガラス溶解炉を使い、秋刀魚の骨や木の枝をガラスに閉じ込める試作を重ねました。昆虫をガラスに挟み込んで焼いたこともあります。「きっとガラスに耐えられる素材があるはずだ!」と信じていました。しかし、そのたびに溶解炉から異臭や煙が上がり、先生に叱られたのも良い思い出です。(先生方、あの時は本当にすみません…!)

(写真:「GLASS WORKS 1991 / TOKYO GLASS ART INSTITUTE GRADUATION EXHIBITION」より)

ガラスの未来 – 透明な世界の探究

ガラスは私たちの身近にあり、食器や建材、医療、繊維など様々な分野で活用されています。水晶の化石をきっかけに、私は「透明な世界」への探究を続けてきました。そして今もなお、ガラスという素材の魅力は尽きることなく、新たな可能性を秘めています。

地球の鉱物であるガラスに、異なる素材をかけ合わせることで、新たな表現が生まれるかもしれません。その可能性を追い求めることこそが、創作の醍醐味ではないでしょうか。

次回は、その「未知なる扉」を開こうとする試行錯誤の様子をお伝えできればと思います。え? まだ続くの? そう思われるかもしれませんが、よろしければぜひお付き合いください。

🌿 価格改定のお知らせ 🌿
来月より作品価格が変更となります。ご注文は3月30日までにお願いいたします。

本日も最後までお読みいただき、ありがとうございました。













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